04:きんいろのひと


 出かける三蔵を、悟空は寺院の門のところにある大木から見送った。
 大勢の僧が門のところに並んで見送っている。だが、三蔵は見向きもせずに門をくぐった。ただ一度、悟空のいる大木に視線を送っただけで。
 三蔵が自分の方を見てくれた、それだけで悟空は嬉しくなった。
 ちゃんと自分がどこにいるのかわかってくれているということだから。その存在を認め、許してくれているということだから。
 三蔵の後ろ姿を見送る。
 午後の日差しにキラキラと輝く金の髪。
 最初に会った時、太陽かと思った。ずっと憧れていた金色の光。それが地上に舞い降りて、人の形をとったのだと思った。
 綺麗だった。まばゆく輝いて見えた。
 ――おい、俺の事をずっと呼んでいたのはお前か?
 話しかけられてびっくりした。
 ――うるせぇんだよ、いい加減にしろ。
 その時は、言われたことがよくわからなかった。
 呼ぶことなんて、してなかった。ただずっと淋しくて、ずっと孤独で、どうしてここにいなくちゃいけないのかもわからなくて。
 そして、差し伸べられた手。
 自分に向けられたのだと、気付くのにちょっとかかった。
 ずっとあの岩牢から出たいと思っていた。この手で外の世界に触れたいと思っていた。
 でも、誰かが手を差し伸べてくれて、誰かがあの岩牢から出してくれるなんて、そんなことは思ってもみなかった。
 いや、違う。
 どうやっても自力で出れないことはわかっていた。誰かが来てここから連れ出してくれない限り、出れないことはわかっていた。
 だけど、待っても、待っても、そんな人は来ないのだと思い知るのが怖かった。
 だから、誰かに助けてもらおうなんて、考えないようにしてきた。
 それでも、このまま岩牢にいるのだと諦めることはできなかった。
 だからきっと、無意識のうちに助けをもとめていた。
 それに三蔵が応えてくれた。
 手を伸ばすと、三蔵が掴んでくれた。握り締められたその力強さに、その人が本当にここに存在していて、自分を連れ出してくれるのだと知った。
 とても懐かしい感じがした。
 もしかしたら、ずっとこの人を待っていたのかもしれない。長い、長い孤独の日々もこの人に会うためだけに存在していたのかも。
 だったら、いい。
 そう、思った。
 このためにあったのならば、あの孤独も、絶望も、淋しさも、全て報われる。
 初めて触れた世界は明るくて、前を歩く三蔵の髪が光を受けて、キラキラと輝いていた。今の三蔵みたいに。
 綺麗で。
 本当に綺麗で嬉しくなって、後をついていった。
 そしたら不機嫌な顔で、どうして後をついてくるのかと聞かれた。
 そんなこと、聞かれるまでもないと思った。連れて行ってくれると信じていた。
 ――連れてってやるよ、仕方ねぇから。
 だから、そう言われて笑った。当たり前のことだと、笑った。
 あの時は、ずっと一緒にいるんだと信じていた。
 あれからもうずいぶんと時間が過ぎた。
 寺院に連れてこられて、たまに長安の町にも連れて行ってもらえて、三蔵以外の人間を大勢見たけれど、三蔵よりも綺麗な人を見たことはない。
 もちろん、外見もそうだけど、もっと違う、本質的な意味で。
 金色の光。大切な、大切な人。
 ずっと、一緒にいられると信じていた。