05:3秒前


 芳桜寺。
 長安からさほど遠くないところにあるその寺は、小さいながらも歴史は古く、格式のある寺として知られていた。
 三蔵とその従者としてついてきた僧二人は、寺院内にある一室に通された。
 しばらくして、静かに扉がノックされた。
「失礼します」
 そう言って入ってきたのは、茶を運んできた小坊主だった。だが、ただの小坊主ではなかった。
 美しい、というよりも、艶かしいという表現の方があっている。
 まだ剃髪はしていなく、黒い艶やかな髪を肩で切りそろえ、白い肌と対照的に唇が紅をさしたように赤い。整ってはいるが可愛らしさを残したその容姿は子供のものだったが、匂いたつような色香を漂わせていた。
「お茶をどうぞ。僧正さまより、今しばらくお待ちくださいとの伝言を承っております」
 静々と進み出て、三蔵の前に茶を置く。それから、その後ろに控えていた二人の僧の前にも。間近で小坊主を見た二人が息を飲む様子が伝わってきた。
「当寺院で栽培しております、特別なお茶でございます。お口に合うとよろしいのですが」
 浮かんだ笑顔に見向きもせずに、三蔵は不機嫌な顔で茶に手を伸ばした。
「これは……」
 従者の僧の一人が思わず感嘆の声をあげた。
 それも無理もない。茶特有の渋みが全然なかった。寧ろ甘い。花のような香りが口の中に広がる。
「お気に召しましたか、玄奘三蔵さま?」
 すっと小坊主が三蔵の方に寄った。覗き込むように三蔵の顔を窺う。
「よろしければ少量ですが、玄奘三蔵さまに献上いたします」
「……煩い」
 三蔵の口から低い声が漏れた。普通の人間ならば、その声音で震え上がってしまうだろう。だが、小坊主はクスリと笑った。
「失礼いたしました。ところで、名高い玄奘三蔵法師さまのお話を聞きとうございます。今宵、お部屋に伺ってもよろしいですか?」
 三蔵が小坊主を見た。
「さ、三蔵さまっ!」
 その視線の鋭さに、後ろに控えていた僧達が慌てて立ち上がった。いますぐ切って捨てようとするかのような鋭さだった。
 だが、小坊主は少しも動じることなく微笑みを浮かべたまま、三蔵を見ている。
「そちらの方にはご興味がないのですか? 綺麗な金色の目をした子供をご寵愛と聞き及んでおりますが」
 三蔵の視線が一段と鋭さを増し、口を開こうとしたその刹那、いきなり後ろで大きな物音がした。振り返ると、従者が二人とも床に倒れていた。
「……何をした?」
 小坊主は鈴を振るような笑い声をたてた。
「中途半端に邪魔をされると面倒なので、ちょっと眠っててもらっただけです」
「お前、何者だ?」
 三蔵はゆっくりと立ち上がると、懐から銃を取り出した。そして、狙いを小坊主につけた。