11:神様


 神は誰も救わない。
 前に三蔵が言っていた。だから、神様にすがることはしない。
 それに、あの岩牢に閉じ込められていたとき、いくら祈っても願いは叶わなかった。
 外の世界に触れたいと。
 それが叶わぬならば、この目の前の景色を消してほしいと。
 そう。例えばここが地の底だったら、太陽の光なんて知らずにすんだのに。
 全てを明るく優しく照らし出す光。
 その光に触れたかった。その光に包まれたかった。
 だけど、ずっと願いは叶わなかった。
 叶えてくれたのは三蔵。神様じゃなくて、三蔵だった。
 暗い暗い闇の中から連れ出してくれた。太陽よりももっと眩しい世界をくれた。
 だから、信じられるのは三蔵だけ。
 でも、今はここに三蔵はいない。
 不安が渦巻く。言い知れぬ不安。
 本当に三蔵が危ないときにはわかった。なんでだかは知らないけど。
 でも今は、よくわからない。この不安が三蔵が危険だからなのか。それとも、自分が不安なのか。
 いつでも三蔵のそばにいれれば、それで良かった。暖かい太陽の光を浴びているような気持ちになった。
 見ているだけで幸せだった。
 三蔵が寺院を留守にするときは、淋しかった。ただ淋しかった。
 それでも、いつでもちゃんと帰ってくると約束してくれたから、置いていかれると思ったことはなかった。
 ただ、姿が見えないのが淋しかった。
 置いていかれると思うのは、怖い夢を見たとき。
 怖い夢は、たいてい内容を覚えていない。
 ただ喪失感だけが残っている。どうしても失いたくなかったのに、この手から消えてなくなったような。その手を離すことは絶対にしたくなかったのに。
 でもたいてい三蔵が気付いてくれて、そばに来てくれて、頭を撫でてくれる。
 ゆっくりと、優しく。
 何も言ってはくれないけど、そうしてもらうと怖いのは消える。
 三蔵はここにいるから。消えてなくならないから大丈夫だって思える。
 今の気持ちは、夢を見たときに似ている。とても不安で……。
 何かが変わろうとしている。自分の中で。
 三蔵を見ているだけで幸せだった。それなのに、何かが足りないと叫んでいる。
 幸せや淋しさや怖さや不安。それ以外の何か。
 三蔵。
 今すぐ、ここに来てほしい。そして抱きしめて。怖い夢を見たときのように。
 ずっと、そのまま抱きしめていてくれたらいい。その腕の中に閉じ込めて、俺だけを見てくれたら――。
 だけど、もし、その目がこちらを見てくれなかったら。
 今でも時々、三蔵は遠くを見ている。こちらを見てくれないときがある。
 例えば雨の日に。
 心の中を不安が駆け巡る。どうしようなく。
 こんなときに、人は神様にすがるのだろうか。
 でも、それはできない。
 三蔵。
 いつでも呼ぶのは三蔵のこと。例えこの不安を三蔵がもたらしているのだとしても。
 三蔵。
 すがる相手は三蔵しかいない。