21:記憶喪失
「記憶喪失?」
ぼそぼそと呟く声が聞こえてきた。
「えぇ。悟空は三蔵と会う前の記憶がないと聞きました。封じられているようだということでしたが、もし記憶喪失のようなものだったら……」
「昔の記憶を思い出したら、記憶喪失だった期間の記憶は消える――?」
「そういうこともありえる、ということです」
ゆっくりと、悟空は目蓋をあげていく。
どうしてだろう。
普段は何気なくやっていることなのに、目蓋が凄く重くて、意思の力を足さなければ、目を開けることもできない。
「……気がつきましたか?」
それでもどうにか目を開けて、そのまま、ぼーっと天井を見ていたところ、声をかけられた。
「大丈夫です。僕たちは怪しいものじゃないですから」
声のするほうに顔を向けると、安心させるように微笑む緑の目の青年がいた。その後ろに赤い髪の青年。どちらも心配そうな表情をしている。
知っている――。
悟空は、眉を寄せて記憶を手繰り寄せようとする。
放っておくと、何もかもがごちゃごちゃに渦巻いていくような感覚に陥る。ただそれをどこか遠くで眺めているような、そんな感じがする。
何も感じない。何もわからない。
でも。
この人たちは知っている。
よく遊んでくれて。頭を撫でてくれて。
大好きで。
いや、違う――?
この人たちとは微妙に違う……?
「悟空?」
突然、悟空の目から涙が零れ落ちた。
――会えない。
ふいに、そのことが胸に染み入る。
もう、会えない。大好きだった人たち。大好きだった――。
「おい、コラ」
と、軽く頭をはたかれた。
「いきなり、何、泣いてるんだっつーの」
「ちょ……っ。いきなりは、あなたの方じゃないですか。乱暴はしないでください」
「乱暴ったって、頭、撫でたくらいで、この猿がどうにかなるわけじゃあるまいし」
「あれは撫でたとは言いません。それに今は普通とは違うんですから」
突然のことに驚いて、涙は奥にと引っ込む。
二人の言い合いを見ているうちに、ふと、悟空は何かが欠けているような感じを覚えた。
もう一人。
もう一人、いたはず。
大切な人が。
とても、大切な人が。
――思い出したい。
切実にそう思い、
――思い出したくない。
瞬時に否定する。
思い出したら、消えてしまうかもしれない。……のことが――。
はっとしたように悟空は動きを止めた。そして。
「悟空?!」
「おい、猿っ?」
弾かれたかのように、突然、悟空はベッドから跳ね起きると、外に向かって走り出した。