22:逃亡中。


 嫌だ――。

 夜の闇のなかを、ただひたすら駆け抜ける。
 どこに向かっているのか、どこに行きたいのか。
 そんなことはわからない。
 逃げているのか、追いかけているのか、それすらも定かではなく。
 ただ、木々の間を走り抜けていく。
 混乱。
 誰か、大切な人がどこかに消えてしまった。
 その存在を、どこにも感じられない――。
 すべてが覆されたような、走っているこの足元さえ確かではないような。
 不安。
 目に浮かぶのは金色の輝き。
 淡い金色と、優しい紫の眼差しと。イメージだけが思い浮かぶ。
 だけど、そのイメージは重なっていて、輪郭がぶれていて、どちらがどちらともわからない。
 そう。
 どちら――?
 思い出したいのは、どちら?
 頭の中が混乱する。
 これは、どちらが大切か、選べということ――?
 選んだ途端、選ばなかった方は、消えてなくなる――?
 それは、嫌だ。
 嫌――。
 わからない。
 何もかもがわからなくなって、逃げ出した。
 どちらからも。
 だけど。
 忘れたくない。
 逃げ出しながらも、強く願うのは、そのこと。
 忘れたくない。忘れたくないよ。どうして、忘れなくてはいけないの――?
 口を開ける。
 声のかぎり、呼びたい名前があった。
 呼べば、必ず答えてくれた名前。
 だけど、今は。
 今は、何も出てこない。
 そして。
 何も、感じない。
 その存在を。
 どこにいても、あれほど確かに感じられた、その存在を。
「……っ!」
 こみ上げる涙をとどめるすべもなく、ただひたすら、悟空は走り続けた。