25:スマイル


 閉ざされる意識の最後にのぼったのは、明るい太陽のような笑顔だった。

 もともと表情がくるくると変わる子供だった。
 泣いたり、怒ったり、笑ったり。感情が素直に表に出る子供。
 俗世と縁を切り、モノへの執着を持たない僧たちは、常に穏やかで感情を表に出すこともない。……建前上は。
 そんな中にあって、この子供が目立つのも道理であった。
 墨絵のなかに、鮮やかな原色を落とすようなものだ。嫌でも目につく。
 だからこそ、余計に目の敵にされていたところもある。異質であることに加えて。
 だが、感情を隠す術は教えなかった。そんな高等技術が身につくかどうかが疑わしかったこともあるが。いや、万事につけ素直な子供は、教えれば何でも覚えるかもしれない。砂に水が染み込むように。
 だが、そんな子供でも、自分の感情を持て余すことがあった。
 わけもなく不安に震えて。
 特に拾ってきたばかりの頃は、よく夜に、布団に潜り込んできた。
 怖い夢を見たと言って。
 といっても、夢の内容は覚えてはいない。
 ただ震えて、静かに涙を流す。
 五百年前の封印された記憶。
 大罪を犯し、そのために記憶は封印され、その身も五行山に封じられたという。
 昼の明るい陽射しのなかでは忘れ去れているその罪の意識は、夜の闇に紛れて忍び寄ってくるのだろうか。
 だが、どちらかというと、犯した罪の重さに震える、というよりは、そのときに失くしてしまったものをもとめているようにみえる。
 失くしたもの――失くした人、か。
 だからこそ、人の温もりをもとめてくるのだろう。
 それが誰だったのか。
 気にならないわけではない。
 だが、覚えていないものを聞き出すことはできない。それに、無理に聞き出して、思い出すことを無意識のうちに恐れていたのかもしれない。
 思い出して、本当にもとめているのは、自分ではなく、その誰かなのだとわかるのが。
 結局、それについて、触れたことはなかった。
 だが、何よりも。
 悟空がここにいて、今、もとめているのが、自分だけなのだというのは事実。
 そして、最後には笑顔になるのだということも。
 そう。
 泣いたり、拗ねたり、怒ったりしていても、この子供は最後に必ず笑顔を見せるのだ。
 綺麗な笑顔を。
 他には、誰も見せることのない笑顔。
 口癖のように、子供が言う「太陽のよう」という言葉は、この笑顔にこそ相応しい。

 そして、今。
 目に浮かぶのはその笑顔。

 悟空――。

 意識が白く焼ききれた。