29:たまには逆で


「何だ、これは」
 目を開けて、映し出された光景に三蔵は思わず呟いた。
 異様な光景――ではあるが、見覚えはある。……というよりも、印象が深く、忘れようもない。
 但し、こちら側に立って、のことではない。
 こちら側。
 それは、広くもない洞窟の中、ということ。
 洞窟、というよりも、岩牢――。
 三蔵は、身を起こすと、出口を塞ぐ格子のような岩に触れた。
 硬く冷たい感触。どうやら夢というわけではないらしい。
 隙間から外の世界を覗く。
 眼下に広がるのは緑の森。予想通り、山の上だと思われた。ということは、本当に。
「あの岩牢か」
 口に出して言うと、現実味を帯びてきた。
 辺りを見回すと、至るところに札が貼られているのが目に入る。
 先ほどから、身の内にあるはずの力の波動が感じられなくなっていた。双肩にかけられた経文の波動も感じられない。
「力の封印か……」
 格子のような岩の間は、人一人が通れるほどの隙間はない。
 そして、その硬さ。
 魔界天浄は、どちらにしても無機質なものに対して効果はないが、法力を封じられていては岩を打ち砕くこともままならない。
 だが、悟空のように鎖に繋がれていないだけ、マシというべきか。
 そう考え、ふと、悟空の顔が浮かんできた。
 悟空は、五百年もの間、この岩牢に捕らえられてきたのだ。
 五百年。
 それは、一言で言い表せるような年月ではない。
 それと同じように、長く孤独な幽閉の日々が始まるというのだろうか。
 あの青年が何を考えて、自分をここに閉じ込めたのかはわからない。
 ひとつだけ機会をさしあげましょう。
 そう言っていた。
 それは、いつかの自分のように、悟空がここに来れば、この岩牢から抜けられるということだろうか。
 呼べ、と。
 だが、そんな悠長なことはしていられない。
 三蔵は懐から銃を取り出すと、手のひらに乗せてみた。
 確かな重みが伝わる。
 それだけが、今、自分が手にしている『力』だ。
 三蔵は、唇に微かに笑みを刻むとグリップを握り締めた。
 手をあげ、水平に構え、そして――。
 出口を塞ぐ岩に向かって、銃弾を撃ち込んだ。