30:拒食症気味


 とぼとぼと。
 結局、どうしようもなく、悟空が悟浄の家に戻ると、戸口に心配そうな様子で佇んでいる八戒の姿が目に入った。
「悟空っ!」
 八戒も悟空を見つけて、走りよってくる。
「大丈夫ですか?」
 そして、そばに来ると珍しく抱きしめられた。
 微かに体が震えている。
 これも珍しいことで、八戒がどれほど心配していたのかが伝わってきた。
「ごめん」
 悟空は一声呟いた。
「悟空が謝ることはないですよ。それより、どこか怪我しているとかはないですか? あと気分が悪いとかは?」
「どっちも、平気、でも……」
 転んだせいで、泥だらけになっていた。
「ごめん、八戒の服にも泥がついちゃったね」
「そんなこと……」
 言いかけて、八戒が少し目を見開く。
「悟空? 僕のことがわかるんですか?」
「うん。さっきはなんか混乱してて……。ごめん」
「だから、謝ることはないですって。それより、中に入りましょう。朝ごはん、作りますから」
 とにかく悟空が自分を取り戻したことに安心して、八戒はにっこりといつもの笑みを見せると、家の中へと悟空を招き入れた。
「とりあえず、果物でも食べててくださいね。すぐ用意しますから」
 トン、と食卓の上に、とりどりの果物が乗った籠が置かれる。
「ありがと」
 悟空は、辺りを見回しながら食卓の椅子に座った。
「ね、八戒。悟浄は?」
「あなたを探しに行ってます。でも、そのうち戻ってきますから」
「そっか」
 悟空は目の前の果物の山をじっと見つめた。
「悟空?」
 なんだか様子が少しおかしいことに気付き、八戒が声をかけた。
 いつもであれば、座った途端、もう食べ始めているはずだ。しかも両手に持って。
「気分でも悪いですか?」
「あ、ううん。へーき」
「果物じゃなくて、別のものがいいですか? ちょっと待っててくださいね、今、用意しますから」
「ううん。大丈夫……ってか」
 悟空は、カタンと椅子から立ち上がった。
「なんかあんま食べたくないんだ」
 その言葉に、八戒は驚愕の表情を浮かべた。