32:あなたについて考える


 この岩牢に閉じ込められてから、一体、どれくらいの時間が過ぎたのだろう――。
 三蔵は自分の手に握られている銃を見つめた。
 手持ちの銃弾をすべて撃ちつくしてみても、堅固な岩牢を崩すことはできなかった。
 そしてそれからは、ただ時間だけがいたずらに過ぎていく。
 ただ単調に、あきれるほど変化のない時間が。
 本当に、どれだけの時間がたったのか、よくわからない。
 そして、ふと、かなりの時間がたっているはずなのに、空腹を感じないことに気がついた。
 まさしく悟空が言ったとおりに。
 普段は食事にさして関心を払っているわけではないが、それでも腹はすくし、腹がすけば無意識のうちに時間がたっていることがわかる。
 だが、ここではそれがない。
 それがないと、本当に時間の感覚がわからなくなってくる。
 わからなくなって、感覚が麻痺してくるような気がする。
 そして、わからなくて、感覚が麻痺するといえば。
 ここでは、暑さも寒さも感じられない。
 感じられないことに気づいたときにはもうその感覚は、遠い記憶のように、おぼろげにしかわからなくなっていた。
 そして、なによりも怖いことは。
 そんな風に、感覚がなくなったことに対して、よくよく考えてみなければ、なんとも思わなかったこと。
 ただ無感情に、その事実を受け止めたこと。
 それは、本当に怖いことだ。
 このままでいけば、きっと、何も思わずに無感覚のうちに、朝が訪れ、夜になる。
 繰り返される日々の1日1日の重みを感じられなくなる。
 感じられなくなることに、何の感情も湧かなくなる。
 そして、このまま時が過ぎていくことを何も感じなくなったら、疑問を抱くこともなく、ぼんやりとここで過ごすことになるのだろうか。
 三蔵は、ふっと息を吐き出すと、手の中の銃を握り直した。
 そんなことにはならない。
 必ず、ここから抜け出す。
 強く、それだけを想う。
 この手の中にわずかでも、可能性があるのならば。
 そして、この聲――。
 頭の中に響き続ける、この聲。
 この聲が、ややもすれば、消え失せてしまいそうになる感情を呼び起こすから。
 頭の中にこの聲の主の姿を思い浮かべるときに、その存在を感じることができるから。
 だから。
 その存在が今、自分を動かす全て。
 三蔵の顔に、微かに笑みが浮かんだ。
 頼れるのは、己自身だけ。
 そうやって生きていた。今でもそうだと思っている。
 なのに、他人をあてにするとは。
 だが。
 浮かぶ笑みは、澄んだもの。
 不思議と自分を嫌悪する気持ちはなく、また自分の信念が変わったわけでもない。
 ただ。
 特別、というだけだ。
 いつの頃からだろう。そんな風に思い始めたのは。
 たぶん最初は、あの雪の日――。