34:過保護
一体、どれだけ甘やかされてきたのだろう。
三蔵――。
額をコツンと窓につけて、軽く目を閉じて、悟空は声に出さずに呼んでみた。
いつもであれば、無意識のうちに呼んでしまう名前。
寂しいとか、不安とか。
そう、今みたいなときには特に。
それを、今は意識して呼んでみる。
いつでも答えてくれた。面倒臭そうに、しょーがねぇ、とか言いながらも、いつでも。
だからいつでも安心できた。
三蔵が答えてくれるから。三蔵がそばにいてくれるから。
そう思えて安心できた。
だけど。
それが、本当は凄いことなのだということは、全然わかっていなかった。
そうやって答えてくれるということは、いつでも、包み込まれるように優しく見守れていたからからだと。
当たり前のように差し出されていた手が遠くなった今、初めてそのことに気づいた。
そう。
三蔵は優しい。
なんだか、泣きそうな気持ちを覚えながら、そう思う。
いっつも眉間に皺を寄せて、他人のことなどこれっぽっちも考えていないという態度をしているが、本当にその手が必要なときに差し出されなかったことは一度もない。
本当に、一度だって、なかったのだ。
三蔵――。
心のなかで呼びかける。
ただ、その手を差し出してくれるのを待つためでなく。
三蔵――。
ただ、その存在を確かに感じたいから。
ここではない、どこかにいる、その存在を。
そして、もう。
待っているだけでは駄目だと思う。
手を差し出してくれるのを、待っているだけでは。
いつでも甘えてばかりでは。
それはもう、終わりにしなくては。
三蔵が欲しいのは、守らなくても良いもの。
それを知っているから。
強くならなくては。
精神も肉体も。
だけど。
どうすればいいのだろう。
どうすれば、この手に三蔵を取り戻せるのだろう――?