35:僕と君との間の差


 悟空はゆっくりと目を開けた。
 目に映る外の景色は、当たり前だが、目を閉じる前と変わり映えがなく、三蔵が来てくれそうな気配はどこにもなかった。
 これまでも、約束した日に三蔵が帰ってこないことはあった。
 仕事が片付かなかったとか、しつこく引き止められたとか、土砂崩れで道が通れなくなっていたとか。
 理由はさまざまだったが、今回は、もっと根本的なところで違うことが起きているのが感じられた。
 それでも、約束したから。
 待っていれば、いつかは必ず帰ってくる。
 それはわかっていた。
 だが。
 待っているだけで。
 このまま、不安を抱えたままで、待っているだけではいられなかった。
 三蔵――。
 ずっと、その背中を追ってきた。
 あの岩牢から出してくれたときからずっと。
 そうやって、ずっとその背中を追っていくのだと思っていた。
 いつでも、三蔵が前を歩いていて、その背中を追っていれば間違いはないのだと思っていた。
 でも。
 今はその背中が見えない。
 そして、途端に途方にくれてしまう。道に迷った幼子のように。
 こんなんじゃ駄目だと思っているのに、どうしたら良いのかわからない。
 三蔵だったら、どうするだろう、こんなとき。
 不安と気の焦りに、堂々巡りをしていた頭に、ふっとそんな疑問が浮かんだ。
 待ってはいないだろう。
 答えはすぐに出た。
 自分から動くことを厭うところがあるが、でも、こんな不安を抱えてじっと待っている三蔵は想像がつかなかった。
 さっさと自分で動いて、不安を解消しようとするだろう。
 こんな風に、ただ待っていることなどせずに。
 脳裏に三蔵の後姿が描き出される。
 いつでもその背中を追ってきた。岩牢から出してもらってから、ずっと。
 今回も、追いかける。
 追いかけて、捕まえて、そして、今度はその隣に並ぶのだ。
 ただ待っているだけなんて。
 そんなのは、自分じゃない。
 悟空は大きく息をついた。
 無意識のうちに萎縮していた体が、心が、解れていく。
 常にない自分の感情を持てあましていたところに、突然、三蔵の気配が遠くなって、どうかしていたようだった。
 自分の思うままに『行動する』
 それが、本来の悟空の姿だ。
 それを、今、思い出した。
 悟空は立ちあがった。
 その唇には、清々したような笑みが浮かんでいた。
 迎えにいく――。