36:遠い空


「迎えに行くって……」
 悟空が告げた言葉をそのまま返し、八戒は困惑したかのように絶句した。
「いきなりどうしたんだ、小猿ちゃん。いつものように待ってりゃいいだろ。だいたい、お前、三蔵がどの寺に行ったか知ってるのか?」
 後を引き継ぐように、悟浄が問いかけてくる。
「知らない。知らないけど、その寺には三蔵、いないと思う」
「はぁ?」
「違うところにいる。もっとずっと遠いところ」
 悟浄が額にと人差し指をあてた。
「何か? 三蔵は呼ばれた寺からまたどっかに行ったと?」
「そう」
「それがお前にはわかる?」
「うん」
 悟空は力強く頷いた。
 それから、悟浄の顔に不審そうな表情が浮かんだのがわかったのだろう。勢い込んで言葉を続けた。
「だって、わかるんだ。ヘンなコト、言ってるかもしれないけど、わかるんだもん」
「わかる、ねぇ……」
 悟浄と八戒は顔を見合わせた。
 悟空の言葉を疑っているわけではない。
 確かに、三蔵と悟空の間には、絆としか言いようのないものがあるのを、今までに散々見てきた。
 だから、三蔵が法事で行った寺ではない、どこか遠くにいると悟空が言うのもあながち間違いではないかもしれないと思う。
 だが。
「とりあえず、慶雲院に問い合わせてみますか? 本当に三蔵が法事に行った寺からどこか他の場所に行ったのか」
「そーだな」
 そんな会話を交わす二人に、悟空がじれたように割り込んできた。
「それじゃ、遅いって」
「落ち着けよ、悟空。お前、場所はわかんないんだろ? すれ違いになったらどうするんだ?」
「ならない」
 きっぱりと悟空は言い切る。
「それに、きっと三蔵がどこにいるのか、皆、わかんない。ずっと遠いところだから。この世界じゃないようなところだから。でも、俺にはわかる。わかるから、迎えに行く」
「……お前」
 二人は、なんと言葉を続けてよいのかわからずに黙り込む。
「絶対に見つけ出して、連れ帰る」
 悟空は、窓の外の空を振り仰いだ。
 迎えに行く。
 どうして、こんなに単純で簡単なことに今まで気づかなかったんだろう。
 大切だから。
 本当に、大切な人だから。
 この手に取り戻すんだ。