38:運命論


「チッ」
 三蔵は舌打ちすると、持っていた銃を一時懐に入れ、自分の手首を掴んだ。大きく息を吐き出す。
 暑さとか寒さとかは感じないくせに、なぜか痛みとか疲労とかは感じる――いや、感じるように思っているだけか? もうその区別もよくわからなくなっていた。
 一体どのくらいの間、こんなことをしているのだろう。
 普通なら、絶望の淵に沈んでもおかしくはない。
 もう、ここからは出られないのだ、と。
 事実、今でもそう思いそうになる。
 だが、聲。
 頭に響く聲がそれを阻む。救い上げる。
 もうずっと呼ばれ続けている。煩いくらいに。
 この聲は、もう一度会えるまで、頭の中に煩く響き続けるだろう。
 そう思うことが唯一の救い。
 三蔵はもう一度大きく息を吐き出すと、懐から銃を取り出した。
 あともう少し。
 あともう少しで――。

 どことも知れぬ山道を、悟空は歩いていた。
 何だかとても懐かしい感じがするのは、気のせいだろうか。
 ただ三蔵の気配を辿って、闇雲に歩いてきたから、自分の知らないところを歩いているはずなのに。
 それでも、なぜだろう。この感じは――。
 ズンッ。
 と、予告もなく、突然地面が揺れた。
「何っ?!」
 とっさに悟空は身を屈める。
 地震だろうか。
 いや。振動は一回きりだ。
 地震というよりも、何か重いものが地面に落ちたような音。
 身を起こすと、不意にもとめていた気配が強く感じられた。
 近い――。
 すぐ近くだ。
 心臓が跳ね上がり、悟空は心の急くままに走り出した。
 木々が覆いかぶさる山道を駆け上っていくと、唐突に、開けた場所に出た。
 悟空は足を止める。
 視界の先。
 沈みゆく太陽の最後の光を受けて輝く――きんいろ。
 悟空は、ほぅと大きくため息をついた。心がその色で満たされる。
 きんいろのたいよう。
 悟空の顔に笑みが浮かんできた。
 そして。
「三蔵っ!」
 もとめてやまぬ存在に向けて走り出した。