07:ごめんね


駅に向かう道をぽてぽてと、悟空は歩いていた。
前を歩くのは三蔵。
『送る』という焔を断って、電車で帰ることにした。
三蔵はもう金蝉のような姿をしていない。長い髪の鬘を外し、服装もありきたりのシャツとジーンズにと変わっていた。
が、生来の美貌は隠しようがなく、道行く人達がちらちらと視線を投げかけてくる。
なかには振り返って見るものもいたが、三蔵はそれらすべてを無視して歩いていく。
もともとそうやって見られることが多かったのだが、金蝉の人気があがってきてからはそれがもっと顕著になってきた。
いちいち気にしていては余計に疲れる。
ので、いっそ気持ちの良いほどばっさりと周囲を無視して、三蔵は歩いていく。
が。
「おい」
途中で立ち止まって、後ろを振り返った。
俯いて歩いていた悟空が、ぽすん、と三蔵に当たってよろめいた。
そのくらいのことで倒れそうになる悟空の腕を、三蔵は掴んで支えてやる。
「いつまでそうしてる」
溜息をつきつつ、そう声をかけると、ようやく悟空の顔があがった。
そこにあるのは、さきほどまでの拗ねたような表情ではなく、いまにも泣きだしそうなそんな顔。
「もう怒ってねぇよ。ってか、怒ってたのはお前の方だろうが」
三蔵が喫茶店に現れて『帰るぞ』といったときからずっと悟空はそんな顔をしていた。
「……我儘いって、ごめんなさい」
小さく小さく、悟空が呟く。
もう一度溜息をつき、三蔵は掴んでいた腕を離すと、悟空に向かって手を差し伸べた。
手を離された悟空は一瞬、本当に泣きそうになるが、差し伸べられた手にぱちくりと目を見開いた。
「俺は『帰るぞ』って言ったんだぞ。ひとりで帰るつもりなら、声なんてかけねぇよ」
その言葉に、悟空の目がますます大きく見開かれた。
「……一緒?」
それから少し小首を傾げるようにして聞く。
「そもそもそのためにやってることだろうが。少しは頭を使え」
悟空の顔がぱっと輝いた。
「うんっ!」
三蔵の手を取って、横に並ぶ。
「ずっと一緒だよ」
「何度も確かめなきゃ、わかんねぇのか。ったく、猿頭が」
「なんだよ、それっ」
きゃんきゃんと仔犬のように悟空が吠えたてる。
が、それはじゃれているようで。
仲良く手を繋いで歩いていく様は微笑ましくも見える。
その一方で。
「……俺ら、蚊帳の外?」
「というか、存在すら完全に忘れ去られていますよね」
さらに後ろを歩く悟浄と八戒は、そんなふたりに同時に溜息をついた。