13:不思議


久しぶりに綺麗に晴れた空と、風になびく洗濯もの。
なんだかのどかな風景のなか、悟空は大きく伸びをして、ベランダの手すりに寄りかかって辺りを見回した。
金蝉の住んでいるところはマンションの最上階だ。
周囲にはそんなに高い建物がなく、見晴らしが良い。
立ち並ぶ家々を上からほけっと眺める。
ここは都会の真ん中というわけではないが、それなりに都心に近く、どこに出るにも便利な場所だから、当然、眼下は見渡す限り家、家、家だ。
だが、適度に緑も見られ、広い公園とか古い神社とかもあるし、住むには割と理想的な環境である。
悟空は手すりにかけた手のうえに頭を乗せた。
吹き渡る風が心地良い。
日射しはそれなりに強いのだが、気温はそんなに――例年ほど高くない。
今日は晴れているが、そもそも今年の夏は梅雨が明けても雨が多くて、あまり夏っぽくない。
悟空は暑いのは苦手ではないのだが。
むしろこんなんでは、淋しいとすら感じるくらいなのだが。
夏が苦手な三蔵は、過ごしやすいと喜んでるかもしれない。
そんなことを無意識に思い、ふと我に返る。
三蔵――。
考えないようにしていたのだが。
そうやって『考えないようにしよう』と思っていないと、考えてしまう。
というか。
考えないようにしよう、と思っている段階でもう考えているとも言えるのだが。
悟空はひとつ溜息を吐き出した。
三蔵と離れてどのくらいになるのだろう。
たぶん一週間か、その辺。
生まれたときから、ずっとそばにいた。
こんなに長く離れていたことは――記憶を辿ってみるが思いつかない。
せいぜいがとこ、お互いの修学旅行のときくらいだろうか。
それも2、3日のことだ。
いつもいつも、気がつけば視界に入っていたから。
だから。
これは不思議なだけ。
違和感を感じているだけ。
淋しい、ということではない。
「さ……」
無意識のうちに、声に出して呼びそうになって、慌てて留める。
ふぅ、ともう一度、悟空は溜息をつき、えいっとばかりに手すりを押して身を起こす。
「さて、と。昼飯と夕飯。なににしようかな」
パタパタと部屋のなかに戻る。
が、洗濯かごをベランダに置きっぱなしにしたことに気づき、すぐに引き返した。
キラキラと眩しい日射し。
そういう日射しを受けて、輝くような姿がとても好きだった。
――小さい頃からずっと。
「……お……兄ちゃん」
そっと呟く。
――お兄ちゃん。
悟空は少しだけ唇を噛みしめた。