18:チャペル


「悟空っ」
教会に来たはいいものの、どこに向かったら良いのかとキョロキョロしていた悟空は、呼ばれてそちらをぱっと見た。
「李厘っ」
タタタッとそばに走り寄る。
「うわっ」
それからちょっと驚いたような声をあげる。
「なんだ、その反応。失礼だな」
「だってさ」
淡い緑の薄い布がいくつも重なってふんわりとしたシルエットを見せるミニのドレス。どちらかといえば可愛らしい感じで、普段の李厘からは想像もつかないものだったが、不思議なことに――と言ったら失礼だが――李厘にとてもよく似合っていた。
「馬子にも衣装ってやつ?」
「ますます失礼なヤツだな」
言葉の割にはそんなに怒った風でもない李厘が、今度は悟空を上から下まで見る。
「変?」
少し不安になって悟空は小首を傾げて聞く。
結婚式に行く、と言ったら、金蝉がいろいろ揃えてくれた。
結構高そうな服だったので辞退しようとしたが、一緒にパリに行くならそれくらいの服の1着くらいは持っておけ、と言われ、結局、押し切られた。
「いや」
にっこりと李厘は笑った。
「馬子にも衣装って、お前の方かもな。でも、考えてみたらあのお兄さんと同じ血を引いてるんだし……って、悪い」
少し顔が曇ったのを敏感に察知したのだろう。李厘が謝ってくる。
「別に謝ることない。それよりさ。李厘は……平気?」
「なにが?」
「だって、お兄さん……」
「あぁ」
李厘はにっこりと笑った。
「俺さ、わかったんだ。俺のお兄ちゃんに対する想いって、憧れの強いのだったのかなって。だってさ、今回の。相手が八百鼡ちゃんだってわかったら、なんか――気が抜けたっていうか、なんていうか……。結局、俺が一番怖がってたのって、お兄ちゃんを盗られることだったのかも。八百鼡ちゃんはさ、絶対お兄ちゃんを盗ったりしない。それはわかってる。それがはっきりしたら、なんだろ。いろいろフッて抜けてっちゃった。で、さ」
李厘はちょっと伸びあがって遠くを見るようにする。
「お前もさ、もうちょっとよく考えてみたら?」
悟空も、つられるように李厘の見ている方を見る。
「……なんで?」
と、そこにあるはずのない姿を見出し、悟空は目を見開く。
「お兄さん、ウチのお兄ちゃんと知り合いだって知らなかった? 知り合いっていうか、ライバルみたいなものだったみたいだけど。ウチのお兄ちゃん、友達少ないから人数合わせで呼んじゃった」
「李厘」
「お前の想いは俺とは違うんじゃないかなって思うけど……。でも、なんにしても逃げ回ってるのはよくないと思うぞ。すごく心配してたぞ、お兄さん。口に出して言われたわけじゃないけどね」
近づいてくるその姿をじっと見ている悟空の肩をポンと李厘は叩く。
「俺、親族のトコに行ってる。教会の右側の建物が、待合室っていうかそんなのだから。そこで待ってたら、人が呼びに行くから。じゃ」
「ちょ……っ」
声をかける間もなく、李厘は走り出して行ってしまう。
そして。
「……三蔵」
すぐそばに立つ三蔵を、悟空は震えるような眼差しで見上げた。