22:さよなら


駅から家までの道のり。
何度も行き来している、なんていうことのないどこにでもある道。
それなのに。
こんなにも懐かしく感じるとは思わなかった。
『帰ってきた』という不思議な感慨を覚えつつ、悟空は少し急ぎ足で通りを抜けていく。
急がなければならない理由などないが、気持ちに引きずられるのか、どうしても足が速まってしまう。
ざわついていた心はこの景色に落ち着きを取り戻しつつあったが、それでもやはりこの先にいる人に早く会いたい――。
早く――。
はやる心のまま足を動かす。
と、やがて家が見えてきた。
心が躍る。
たかたかとほとんど走るようにして近づく。
勢いよく門を開けたところで。
ガチャっと突然、玄関のドアが開き、びっくりして悟空は動きを止めた。
「待たせてたんだから、駅まで送るくらい当然でしょ」
拗ねているような柔らかな声ととともに、少し大きめのバッグを持った女性が出てきた。
それを見て、悟空は固まったように動けなくなった。
あの、女性――。
それは以前、三蔵とともにいた女性だった。
女性の後ろから、少し不機嫌そうな顔をした三蔵が出てくる。
が、悟空は知っている。
本当に嫌だったら、三蔵はその人のそばにも寄らない。
だから――。
ふと三蔵の視線が動いた。
「悟空?」
目が合った瞬間、悟空は逃げ出したくなった。
が。
手も足も動かない。
まるでそこに縫いとめられてしまったかのように、ただただ動きを止めてふたりを見つめる。
「どうした?」
悟空の様子が普段と違うことが容易にわかったのだろう。三蔵が眉を顰め、少し心配そうな表情を浮かべた。悟空に向かって一歩、踏み出そうとする。
と。
「わかった」
ふぅ、という溜息とともに女性の声が辺りに響いた。
たぶん三蔵が近づいてきたら、反射的に悟空は逃げ出していただろう。
だが思いもかけず女性の言葉が聞こえてきて、悟空はさらに硬直し、指一本たりとも動かせなくなる。
「今日はひとりで帰るわ。この埋め合わせはしてもらいますからね」
スタスタと女性が歩いてきて、門をくぐり悟空に笑いかけた。
「ごめんね、邪魔して」
そんな言葉が悟空の耳に聞こえた。
本当にそう言ったのか、混乱していて定かではない。邪魔をした、というのならば自分の方ではないだろうか。
女性の後ろ姿を見送りながら、そんなことをぼんやりと思う。
「どうしたんだ? 金蝉のところに戻ると言ってなかったか?」
と、頭のうえから声が降ってきた。
いつのまにか三蔵がすぐ横に立っていた。
「さ……」
名前を呼ぼうとして、悟空は俯く。
ダメだ、と思った。
やはりこのままそばにいることはできない――。
悟空は唇を噛みしめた。