28:ずっと一緒


「あ」
パタン、と車のドアを閉めるのと同時に悟空が声をあげた。
「なんだ?」
シートベルトをしようとしていた三蔵の手が止まる。
「マッチ、忘れた」
「ライターがある。……ってか、少しは落ち着け」
もう一度パタンと扉を開け、ワタワタと車から出て行こうとする悟空に三蔵は呆れたように声をかける。
「なんなんだ、朝からまったく」
ふぅ、と溜息をつき、三蔵は手を伸ばして悟空の髪をくしゃりとかき混ぜた。
それで、うっと悟空の動きが止まった。
どういうわけか、今日は朝からバタバタと悟空がその辺を駆け回っていた。準備に余念がない……といえば聞こえがよいが、実は大半は意味もなくただ駆け回っているだけだった。
「……だって」
悟空はちょっと眉根を寄せ、見ようによっては拗ねたような表情を浮かべる。
それはなんともいえず――。
三蔵は悟空の頭に置いていた手を頬にとずらすと、自分の方にと向かせた。
そして。
「……な、な――っ」
一瞬にして悟空の頬が真っ赤に染まる。
「いきなりなにすんだよっ」
本人はぷんすかと怒っているようなのだが、頬を染めて怒ったような表情を浮かべても。
「……」
無言のまま、三蔵はもう一度その唇を掠め取った。
「三蔵っ」
さらに悟空は怒ったような声をあげるが、三蔵ははぁっと大きな溜息をつく。
「お前、性質悪すぎ」
「はぁ?」
「それより、なにをそんなにバタバタしてるんだ。別に墓参りなんて毎年一緒だろうが」
今日は盆の入りで、三蔵と悟空は両親の墓参りに行こうとしていた。
「そうだけど。でも、今年は特別……だもん」
「あ?」
「だってさ、ちゃんと報告……したいもん。三蔵は一生、俺が幸せにしますって」
ぐっと拳を作って、なにやら決意漲る悟空に、三蔵はもう一度大きな溜息をついた。
「なんだよっ、その態度っ」
またまた悟空は怒りだすが。
「違うだろ。二人で幸せになる、だろ」
頭をポンポンと軽く叩かれて、そう言われて、ぱちくりと大きく目を見開いた。
「違うか?」
それから重ねて問われ、悟空は大きく破顔した。
「違わないっ!」
幸せそうに笑いながらすりすりと、まるで小動物のように悟空は頭に置かれたままだった三蔵の手に懐く。
「ね、三蔵」
だがひとしきり懐くと、少し心配そうな表情でじっと三蔵を見つめる。
「お父さんもお母さんも……怒んない、よね?」
小さく問いかける。
「なんの心配をしてるんだが。あのふたりなら、そうだな……それこそ赤飯を炊くとか言い出すんじゃないか?」
瑣末なことにはこだわらなかった両親のことを、悟空は思い出す。
それで、ほぅと安心したように溜息をついた。
「三蔵、大好き」
ほわっと笑い、悟空は伸びるように三蔵の方に顔を近づけて、軽く唇を重ね合わせる。
「……ったく、本当に」
離れていく悟空を掴まえて。
「性質悪ぃ」
三蔵はそう呟くと、今度は深く唇を重ね合わせた。