29:黄金


日曜日の昼下がり。
三蔵は居間のソファーで、本を読んでいた。
そこに悟空がやってきて、麦茶の入ったグラスを二つ、ローテーブルに置くと横に腰かけてきた。
特に言葉はない。
ただ黙って、寄り添うように座っている。
が。
「――なにをしてる」
コクコクと麦茶を飲み干したあとで、悟空はサラリと三蔵の髪に触れてきた。
そしてそのまま弄ぶように指に髪を絡めとる。
「綺麗だな、と思って」
言いながらも、サラサラと指の間から零す。
キラキラと輝くさまに、悟空はふわりと笑う。
その笑顔は決して不快なものではないが――それどころかずっと眺めていたいと思わせるようなものであったが。
「いい加減にしろ」
軽く、三蔵は悟空の手を退けた。
払うというほど強いものではない。
悟空以外であれば、そもそも触らせもしなかったろうから、それからしても破格の扱いだ。
だが、悟空はぷくっと頬を膨らませ、そのままふいっと横を向いてしまう。
その表情も態度もまるで子供だ。
子供の我儘に付き合うほど、三蔵はできた性格をしていない。
――なのに、放っておけないのは……。
三蔵は軽く溜息をつき、本を置いた。
「ったく、拗ねることでもねぇだろうが」
鬱陶しいと思えば、悟空といえども止めさせる。
さっきのような扱いは決して珍しいことでもない。
「だって……」
少し拗ねたように、まだそっぽを向いたままで悟空は言う。
「触ってもいいかな、って思ったんだもん。ずっと触ってみたかったけど……それ、ヘンだし、ダメだろうな、って思ってて。でも……でも、恋人……なら、いいかな、って」
その答えに、三蔵は今度は大きく溜息をつく。
「なんだ、それは。髪くらい――特別なモンじゃねぇだろ」
「特別だもんっ」
くるり、と悟空は三蔵の方に向き直る。
「ずっと、小さい頃から綺麗だなって思ってた。俺も三蔵みたいに金色の髪だった良かったのに。なんでこんな色なんだろ」
悟空は自分でつん、と髪の毛をひっぱる。
「俺と三蔵って、ホント全然、似てないね。兄弟なのに」
それは誰からも良く言われることだ。
「似てた方が良かったか?」
「うーん……。ちょっと、それは微妙かも」
三蔵が自分によく似ていたら――もしくは自分が三蔵に似ていたら――。
そんなことを考え、悟空は苦笑いにも似た表情を浮かべる。
「でも、髪くらいは似てたかったな」
「そのままのがいい」
三蔵は手を伸ばし、さきほど悟空がしていたのと同じように、見た目よりも柔らかな茶色の髪を指に絡ませる。
「でねぇと、お前らしくねぇよ。それに――」
それから手を滑らせて、頤に当て軽く上を向かせる。
「金色なら、ここにあるじゃねぇか。こっちのが――」
唇を目蓋のうえに押し当て、三蔵は囁いた。
――よっほど綺麗だろうが。