31:kiss


日曜の昼下がり。
三蔵と悟空はソファに仲良く並んで座り、借りてきたDVDを見ていた。
悟空好みのアクションもの。
だがアクションシーンだけでなく、話もよくできていた。久し振りに面白いと思える作品で、エンディングのクレジットを余韻に浸りながらぼーっと眺める。
その途中、ふと悟空は横に座る三蔵にと目を向けた。
特になにがあったわけではない。
本当になんとなく目を向けただけだったのだが、ほぼ同じタイミングで三蔵も悟空の方に視線を向け、一瞬、ふたりは見つめ合った。
――あ……。
と、悟空が思う間もなく、三蔵の手が伸びてくる。頬に触れられて息を呑んだところ、軽く唇が重なってきた。
そっと触れただけで、唇はすぐに離れていく。
近すぎてぼやけていた顔がちゃんと見えるようになる。
だが、それでも距離は近い。
とても近い――。
それがどちらからともなく近づいていくことで、また縮まっていく。
ふわりふわりと触れるだけのキスを繰り返す。
羽根のように柔らかいキスはとても安心できるもので、悟空の体からは力が抜けていき、三蔵に寄りかかるようになる。と、包み込まれるように抱きしめられた。髪に顔を埋めるような感じで、頭のうえにキスが降りてくる。
ほぉっと深く息をつき、悟空は笑みを浮かべた。
こんな風に触れるようになったのは最近――ふたりの関係が変わってからだ。
それまでもふたりきりで過ごすことはよくあったが、ここまで近くはなかった。
そして不思議なことに、ふたりの関係が変わる前は、一緒にいたいと主張するのは悟空の方だったのに、いま手を差し伸べて触れてくるのは三蔵の方だった。
ふとしたタイミングで触れられる。抱きしめられる。キスを仕掛けてくる。
そんなことはまったくしそうにないのに――。
柔らかく抱きしめられた腕のなかから、悟空はそっと顔をあげた。
こちらを見ている綺麗な顔と目が合う。
ここまで間近に見られることが嬉しくて、悟空はまた笑みを浮かべた。
一瞬、三蔵がなんともいえないような表情を浮かべたのがわかった。なんだろう、と思うが、綺麗な顔が近づいてきて考えることができなくなる。
啄ばむように触れてくるキスはやがて深くなる。
煙草を吸う三蔵とのキスは決して甘いものではないのだが――それでも甘いと感じるのはなぜだろう。
溶けていく頭の片隅で思う。
「……んっ」
息継ぎのためにずられた唇の間から、鼻にかかったような甘い声が漏れる。
無意識のことだが少し恥ずかしくなり、反射的に悟空は体を引いてキスを振り解き、抱擁から抜け出そうとする。
だが、腕を掴まれ引き戻された。
再び重なってくる唇。そして今度のは――。
「……――っ!」
ビクッと悟空の肩が揺れる。
乱暴に舌が絡め取られる。まるでなにもかも奪われそうなキス――。
「さんぞ……っ」
驚いて逃れようとするが叶わない。ソファにゆっくりと押し倒されていく。
キスも、三蔵に触れられるのも――それ以上のことも嫌ではない。だが、それまで穏やかに触れてくるだけだったのに、どうしてこんな風になったのかがわからなくて。
「三蔵」
悟空は少し泣きそうな顔で、三蔵の名を呼ぶ。
と。
見下ろす三蔵から、溜息が降ってきた。
――なにか機嫌を損ねることでもしたのだろうか……と思うが。
「お前、質悪すぎ」
呟き声とともに、目尻に唇が落された。
「あんな誘うような真似をしておいて、なんで逃げようとする?」
悟空はぱちくりと目を見開いた。
誘う? 誘うって――……。
「な、な――っ」
なにを言っているのだ、と言いたいのだが、驚きすぎて言葉がでない。
と、軽く唇に触れられた。
「嫌か?」
そんな風に見つめられて、そんな風に囁かれて――否、と言える人などいるのだろうか。
悟空はふるふると首を横に振った。が、ひとつだけ小首を傾げて提案してみる。
「でも、さ。ベッドにいかない?」
一瞬、三蔵はさきほどと同じようななんともいえないような表情を浮かべた。
「却下」
その後、ひとことで切って捨てられる。
「なんで? だって――」
「そんな風に煽られたら、んな余裕なんてねぇよ」
「なに、それ。煽ってなんか――」
言葉は重なってくる唇に遮られる。
そして繰り返されるキスに――悟空は三蔵にすべてを委ねた。