33:心の声


アルバムを見ているうちに、なんだかもう掃除はどうでもよくなっていた。
どうせ年末にやらねばならないのだ。それよりいまは昔のアルバムの方を見ていたかった。
それでごそごそとクローゼットを漁り、そこにあったアルバムを全部出して積み上げて、片端から見ていく。
ページをめくっていると、突然、猫の耳のようなものがついたパーカーを着ている小さな三蔵が出てきた。
思わず、ふふふ、と忍び笑いをもらす。
こういうのこそ、見られたくない類のものだろう。
小さな頃のことだ。なにを着せられているのかよくわかってなかっただろう。
きっともう少し育った頃には拒否されていたのではないかと思う。
それにしても、すごく可愛い。
「いいなぁ。この頃の三蔵って見てみたかったな」
それは無理な話なので、写真でひとしきり堪能する。
と、微かにはにかんだような笑みを浮かべる三蔵の写真が出てきた。
そんな笑顔を見せるのは、小さい頃の写真とはいえ珍しい。
お腹の大きな母と写っている写真。
小さな三蔵は、母のお腹に耳をあてている。柔らかな笑みを浮かべて、母がそれを見守っている。
なんだか『幸せ』を凝縮したような写真。
悟空は知らず知らずのうちに笑みを浮かべ、ほぅっと溜息をついた。
しばらく見つめ、そのアルバムだけ、そっとわきに避ける。
また後で見よう。
そんなことを思って、別のアルバムを取り出してめくる。
と、今度は自分が着ぐるみ風なものを着ている写真が出てきた。
この間、三蔵が『そういうのならお前のが多い』と言っていたのだが、その通りだ。
猿、猫、うさぎ、虎……三蔵よりもバリエーションが多い。
「なに、これ。もう。お母さんの趣味かな」
自分の写真にはあまり興味がない。
適当にぱらぱらとめくっていると。
「わっ」
写真が1枚、ひらりとアルバムから落ちてきた。
どこかから剥がれ落ちてしまったのだろうか。
何気なく拾いあげたところ。
それは三蔵の写真でも、悟空の写真でもなく――なにか建物……のようなものの写真だった。
白黒で撮ったのだろうか、と思うくらい色調が暗く――そのせいか、ひどく陰鬱な感じのする建物――というか祠だろうか。よくはわからないが、そんな感じの建物だ。
なんの気なしにひっくり返してみると、この祠がある場所だろうか。山の名前が書かれていた。さらっと走り書きのように書かれている。たぶん母の字だろう。
「なに、これ?」
思わず口に出して、問いかけてしまう。
なんでこんなものが紛れこんでいたのか、まったくわからない。
もう一度ひっくり返して、改めて写真を見る。
と。
――知って、る?
不意になんだかとても良く知っている場所のように思えた。
が、そう思うそばから、そんなことはない、と思う。
走り書きしてあった山には行ったことがない。
都心からそんなに遠くないところで――実を言うと三蔵が通っている大学の近くで、それで名前だけは知っていたのだが。
行ったことはない――はずだ。それは事実なのだが。
――知っている。
写真を見ているうちにその思いがどんどんと大きくなる。
祠の――建物に使われている木の感触。
少し埃っぽい匂い。
隙間から差し込んでくる――光。
眩しい――光。
――たいよう。
あれに届けばいいのに。
外の世界に行ければいいのに――。
ぐるぐると頭の中に思いが渦巻く。
そして。
突然、ガタン、という音がクローゼットのなかから響いた。