34:拳銃


突然の音に、悟空はビクッと肩を揺らした。
「……あ」
音で我に返る。
深く沈みこんでいた意識が、現実にと戻ってくる。
いまなにを――考えていたのだろう――……。
なんだか頭がガンガンと痛む。
が、クローゼットからした音の方が気になって、痛む頭をおして扉を開ける。
と。
「……」
驚きすぎて声が出ない。
目に映ったのは。
鈍く光る――拳銃。
恐る恐る手を伸ばしてみる。
冷たい感触が指先に伝わる。持ちあげて――重い。どっしりとした重量が手に伝わる。
――本物?
かどうかはわからない。実物を見たことがないのだから。
だが、なんとなく本物なのではないかと思う。
本物だとしたら――どうしてこんなものがここにあるのだろう。
この国では、銃を持つのには許可がいる。
といっても、それは猟銃の場合ではないだろうか。
こんな銃にも許可がおりるのだろうか。こんな――よくアメリカのアクション映画に出てくるような、リボルバーの、いかにも拳銃だというような銃に。
先ほど、アルバムを漁っていたときには、こんなものがあるなんて、まったく気付かなかった。
どこに隠してあったのだろう。
――そう。
きっと隠してあった。
だが、なんのために――……?
悟空は途方に暮れたように銃を見、それから銃の他にもうひとつ落ちているものに気がついた。
大学ノートだ。
無意識のうちに、パラパラとめくると、綺麗な文字が見えた。
先程のメモとは違う筆跡。
こちらは父の手によるものだろう。
混乱する頭で見るとなしに見ていたのだが、悟空の手がとまった。
そこに書かれていたのは、金色の目に関する伝説。
いつしか真剣に読み出し、読み進めていくにつれ、悟空は微かに震えだす。
金晴眼――不幸をもたらすもの。その事例。
ひとつやふたつではない。
たくさんの。
金色の目を持つ者が不幸をもたらすというのならば自分は――?
自分もまた周囲に不幸をもたらす――ということだろうか――……。
もしかしてそうやって不幸をもたらす前に、この銃で――?
いや。
不幸をもたらす前――だろうか。
もしかしたらもう既に――。
この銃が間に合っていないということはないだろうか。
だって、両親は――。
両親の突然の死も――。
――自分、が――……?
いてもたってもいられなくなり、悟空は立ち上がる。
と、ガタン、と大きな音をたて、膝に乗せていた銃が床に落ちた。
ふたたび悟空はビクッと肩を震わす。
そして、不意に思う。
このままではいけない。
このままでは――。
なにをどうしたらよいのかはわからない。
だが、このままではいけない。どうにかしなければ――。
悟空はノートと銃を掴むと部屋を飛び出した。