35:迷夢


どうにかしなくては――そんな気持ちだけであてもなく家を出て、気がついたら電車に乗っていた。
写真の裏に書かれていた山に通じる路線。
無意識のうちにそこに向かっていた。
山があるのはこの路線の終点の駅だ。そこで降り、今度はバスに乗って山にと向かう。
駅で降りたとき、ふと、近くに三蔵の大学があるということが頭に浮かんだ。
何度か三蔵を訪ね、大学に行ったことがある。
駅から山に行くのとは違う路線バスに乗って行く。
いま行けばいるのだろうが――だが、だからといって――会いに行って、どうしようというのだろう。
なにを話せば良いのだろう。
自分が不幸をもたらす存在かもしれないということ――?
もしかしたら父と母が亡くなったことだって――。
ふるり、と悟空は震える。
無意識のうちに思考を中断し、考えないようにしてきたことを、頭から追い出す。
まだ、だ。
まだ、わからない――。
まだ本当に『そう』だと決まったわけではない。
半分、自分の意識の奥深くに沈みながら、バスを降り、どこを辿ってきたのかもわからないが、ふと自分が登山道の入り口にいるのだということに気がついた。
山としてはそんなに大きいものではない。
だが、手元にある写真の祠がどこにあるのか。
それを捜すのには広すぎる。
祠はさびれた感じで、もしかしたら遊歩道となっているようなところでは見つからないかもしれない。
というか、どこをどう捜したら良いのだろう。
管理事務所みたいのがあるのだろうか。
写真を見せて聞いてみれば良いのだろうか。
一瞬、途方に暮れるが、ふとなにかに引っ張られるような感じがした。
こっち――。
不思議とそんな感じがする方にと足を向ける。
引っ張られる――のような感じに従って、足を進めていくうちに登山道から離れ、狭い道になり、やがて獣道を行くようになってしまった。
このまま行くと遭難してしまうのではないだろうか。
そんなことをふと思うが――引っ張られる気持ちの方が強い。
そのままどんどんと進んで行き、そして。
「……あ」
目の前に、あの写真の祠が現れた。
思っていたよりも小さい。
お地蔵様が1体入っているだけかのような小さな祠だ。
――ここに人が入れるはずがない。
そう思い、なんとなくほっとする。
あの写真を初めて見たとき、なんだかこの祠の内側から外の景色を見ているような不思議な感覚がしたのだ。
でも。
そんなことはない。
そんなことはあるはずがない。
だが、そんな風に頭で否定しながらも、不思議と――懐かしい……ような感じがした。
悟空は祠の前に立ちつくす。
じぃっと見ているうちに、なんだかそこに吸い込まれていくような感じがして――。
ふと気づくと、祠のなかから外を眺めているような――写真を見たときの感覚が蘇ってくる。
蘇るというか――。
なんだろう。
本当に――内側にいるような――。
ここから――。
ふっと目の前が暗くなる。
出たい――。
出られない――。
ずっとこのままなのだろうか。
嫌だ。
どうして――?
どうして、外に出てはいけないの――?
ぐるぐると思考が回る。
暗闇のなかに沈んでいく。
なにもかもが暗闇に覆われ――。
そして――意識も暗闇に包まれた。