決定事項


「悟空」
「なに?」

床に直接ペタリと座り、ローテーブルになにやかやと並べたものを難しい顔で見ていた悟空は、呼ばれて顔をあげた。

「2、3日、観音のトコに行ってこい」
「ねーちゃんトコ?」
「仕事だ。ボディガード」

一瞬、悟空は奇妙な表情を浮かべる。
それから。

「さんぞっ」

突然、立ち上がり、ローテーブルを飛び越えるようにして、戸口に立つ三蔵のもとに駆け寄った。

「浮気者っ」

いきなり三蔵の胸元を掴む。

「俺のいない間に楽しもうったって、そうはいかないんだからなっ」

ギャンギャンと騒ぐ悟空を見下ろし、三蔵は無言のままどこからともなくハリセンを取り出すと。

「あてっ!」

悟空の頭に振り降ろした。

「ひっでぇ。いきなりこんなことするなんてっ。それに、こんなことで騙されないんだからなっ。どこ行くんだっ。だれと浮気するつもりなんだっ」
「……あのな」

三蔵は深い溜息をつく。
すると。

「ぜったい、やだかんな」

ぎゅっと掴んだシャツをますます強く握りしめ、先程までと違う様子で悟空は呟いた。

「仕事だといってるだろうが」

くしゃりと髪をかきまぜるように三蔵は悟空の頭を撫でる。

「嘘つき」

コツンと悟空の頭が三蔵の胸にあたった。
もう一度溜息をつき、三蔵は悟空を引き寄せる。
しばらくそのままでいたが。

「……引っ越すぞ」

突然、三蔵が切り出した。

「うん」

理由も聞かず、もうすでに決定事項であるかのように悟空は頷くと、仔猫のように頬を擦りつけた。

「ぜってぇ離れねぇ」

小さく言う悟空に言葉を返すことはなかったが。
三蔵はさらに悟空を引き寄せた。