毒見
「依頼の人、遅いなー」
はぐはぐと目の前に並んだケーキを端から片付けながら――食べるというよりは『片付ける』という表現の方がぴったりだった――悟空は呟いた。
「ま、遅いほうがたくさん食べれるけど」
「……まだ食うか」
「デザートは別腹」
呆れたようにいう三蔵に悟空は楽しそうに答える。
それから新しいケーキを取り、一口食べてみて感嘆の声をあげる。
「あ。これ、すっげぇうまい。三蔵も食べてみろよ」
フォークで大きく切り取り、突き刺して三蔵に差し出す。
「あーん」
「……いらん」
三蔵は、にこにこと笑う悟空から顔を背けた。
「ひでぇ。そんなに嫌がることねぇじゃん。三蔵、意外と甘いもの好きなくせに」
ぷくっと悟空は頬を膨らます。
「これ、ぜってぇ三蔵の好みだから。大丈夫。毒見済だから」
さらに体を寄せてくる悟空に三蔵の眉間に皺が寄る。
が。
不意に自分から顔を近づけて、悟空の唇を掠め取った。
突然の出来事に、悟空は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
それを見てクスリと笑い、三蔵はもう一度、唇を重ね合わせた。
今度は、しっとりと包みこむように。
舌先で突いて口を開けさせ、口内を探るように舌を滑らせる。
力が抜けた悟空の手から、落ちないように皿とフォークを奪うとテーブルに置いた。
そして行き交う舌が水音をたてるくらいの、深いキスをする。
「……甘ぇ」
やがて三蔵は呟くが、口調とは裏腹に引き寄せられるようにまた唇を重ねる。
「いま、依頼の人が入ってきたらどうする?」
「さあな」
交わすキスの合間に悟空が問いかければ、素っ気ない答えが返ってきた。
だが蕩けるようなキスに、ひどく上機嫌な様子で悟空は三蔵に寄り添った。
「寄りかかるな。重い」
「いーじゃんか」
クスクスと笑いながら、キスが終わってもぺったりと抱きつく。
しばらくそうしてじゃれていたがやがて悟空はお茶にと手を伸ばした。
「いー匂い」
香りを楽んでから、ひとくち、口に含む。
と。
突然、悟空は妙な顔をし、立ち上がった。
「ごめん、ちょっとトイレ」
三蔵が声をかける間もなく、悟空は部屋から出て行った。