花束


ふと夜中に悟空は目を覚ました。

あったかい。
あったかくて、気持ちいい。

すりすりと無意識のうちに擦り寄って、それが三蔵だということに気づいた。
少しだけ目を見開き、悟空は今度こそ完全に目を覚まして三蔵を見つめる。
暗がりのなかだが、先ほどまで眠っていたせいか目は暗闇に慣れていて、暗くても三蔵の顔がはっきりとわかる。

綺麗な――本当に綺麗な人。

こんな綺麗な人の腕のなかにいることができるなんて。
心のなかにぽっと花が咲いたような、そんな気がしてふわりと悟空は微笑んだ。
そぉっと頭を三蔵の方にもたれかからせる。
と。

「……なにしてるんだ」

幾分、眠そうな声がした。
どうやらもぞもぞと動いていたので、三蔵を起こしてしまったらしい。

「ご、ごめん」

寝つきも寝起きも悪い三蔵の機嫌を損ねてしまったかと、悟空は首を竦めるが。

「まだ早い。寝ろ」

言葉とともに、ぐっと三蔵の方に引き寄せられた。
強く抱きしめられる。

驚いて大きく目を見開き、だが悟空はほっとしたように体の力を抜いて三蔵に身を委ねた。
心のなかに咲く花が増えたような感じ。

「三蔵、大好き」

悟空はそっと囁いた。

見えない過去。

普段はなんとも思っていないのだが、それは心のなかにぽっかりと黒い穴が開いているようなもの。
ふとした拍子に意識させられると、その穴は大きく広がって、なにもかも飲み込んでしまうのではないかと、いま手にしている大切なものまで忘れてしまうのではないかと怖くなる。

でも、大丈夫。
三蔵からもらった温かなものがひとつひとつ増えていって、その穴を埋めてくれるから。
いまはまだ守られてばかりだけど、いつかきっとこの胸に咲く花を大きな花束にして返せるように。

――強くなる。

守るべきものではなく、対等の存在になりたいから。
誇れる強さで、この人の横に立ちたいから。

強くなる。

心に誓って、悟空は目を閉じた。
怯えた子供の表情は、いまはもうそこにはなかった。