思考回路


悟空は、メモを片手にスーパーで買い物をしていた。

「お鍋っ、お鍋〜♪」

歌うように、弾むように、口ずさむ。
白菜を取ろうとしたところ、別の方向から伸びてきた手にあたった。

「あ、ごめんなさい」
「いや、こっちこそ」

反射的に謝って、顔をあげると。

「おや、この間の――」
「げっ」
「って、なんだ、その反応は」

目立つ赤い髪の青年がそこにいた。
すすすっと悟空は後退する。

「そう警戒すんな。もう襲わねぇから」

その言葉は信じられない、というように、悟空は赤い髪の青年を睨みつけた。
まるで仔猫が毛を逆立てて威嚇しているように。

「なんかいちいち可愛らしいな」

クスリと笑って、赤い髪の青年が手を伸ばしてくる。
それをパシッと悟空は払う。

「いってぇ。けど、今回は爪は立てないんだね、仔猫ちゃん」
「お望みなら、ここで切り刻んでもいいけど」
「お望みじゃないデス」

赤い髪の青年は降参、というように手を挙げた。それからひょい、と悟空の持っているカゴの中身を見る。

「夕飯の買い物か? ってことは、家はこの近く?」
「それを聞いてどうすんの? アジトを突き止めようってわけ?」
「そうつっかかんなって。お前を捕えろっていう依頼は、一回の失敗で取り消されちゃったから。いまはもう敵じゃない」
「けど、味方ってわけでもない。アンタのいうことに嘘がないとして、だけど」
「意味のない嘘はつかないさ。ただね、夕飯が鍋ならウチもそうだから、一緒に食べないかって誘おうと思っただけ」
「は?」

悟空は目を丸くする。

「大勢で食べた方が美味しいでしょ、鍋は」

そんなことをいう赤い髪の青年をまじまじと見つめ、それから悟空は溜息をつくようにいった。

「俺も変わっているっていわれるけど、アンタも変わってるってよくいわれねぇ?」
「アンタ、じゃなくて、悟浄っていう名前があるんだが」
「沙悟浄。もうひとりの方は猪八戒、だっけ?」
「大当たり。調べたのか?」
「三蔵がね。でもこんな変わった思考回路の持ち主だってのは、教えてくれなかった」
「褒めてんの?」
「どこをどう聞いたら、そうなるの」
「ま、それはいいや。それより一緒に鍋をやる件は……」
「お断り」

悟空はぴしゃりといって悟浄に背を向ける。

「つれないな。ま、簡単に落ちるより楽しそうだけど、な」

クスリと笑う悟浄の声が背中から聞こえた。