願い下げ


「もう、ついてくんなよっ」

スーパーからの帰り道。悟空は後ろを振り返って怒ったように言葉を投げつけた。

「ついてくんな、って言われても。ウチもこっちなんだ」
「じゃ、先に行けばいいだろ」

悟空は立ち止って、あとからのんびりと来る悟浄を睨みつける。

「そう怖い顔しなさんなって。ご近所同士なんだから、もっと仲良くしようぜ」
「願い下げ」

べーっと悟空は舌を出す。
まるで小学生みたいな悟空の反応に、クスクスと悟浄は笑った。

「ま、いいけどね。この辺ってスーパーはあそこくらいしかないから、嫌でも顔を合わせることになるだろうし」

その言葉に、悟空はむぅっとした表情を浮かべた。
とその時、携帯の着信音がした。悟浄がポケットを探って、携帯を取り出す。

「もしもし、なに?」

悟浄が話している隙に、悟空は駆け出そうとするが、伸びてきた手に腕を掴まれる。

「あぁ。もう前にいるんだけど。どうした……ってよりも、ちょっと出てきてみろよ。面白いから」

にやにやと笑いながら悟浄がいうと、そのすぐ後にカチャという音がして、目の前の家の玄関が開いた。
そこから顔を覗かせたのは。

「おや。この間の子じゃないですか」

携帯を手に持った緑の目の青年――八戒だ。
悟空はぱちくりと目を見開き、二人を見比べる。

「ウチはここ。よかったら、寄ってく?」
「いや、いい」

動揺したような表情で、悟空は悟浄の手を振りほどく。

「そう警戒しなさんなって。もう敵じゃないって言ってるだろ。なぁ、八戒」
「確かに敵ではないですけどね。でも悟浄、その子、怯えてるじゃないですか。無理強いはよくないですよ」

微かに苦笑じみた顔で八戒がいう通り、悟空はじりじりと悟浄との距離をとろうとしていた。

と。
カチャリ、と今度は隣の家の扉が開いた。
出てきたのは。

「三蔵っ」

バタバタと悟空はそちらに駆け寄った。

「なんで出てきちゃうんだよっ」

いきなりの言葉に、三蔵の眉間には皺が寄る。

「煙草。お前じゃ買えねぇだろうが」
「いや、そんなことより」

悟空は横を向く。それにつられて横を向いた三蔵は、眉間の皺をますます深くした。

「あらまぁ」
「お隣だったんですね」

しばし、四人はその場に立ちつくした。