見解の相違


「うわーんっ」

けたたましい声をあげながら、悟空が部屋に飛び込んできた。
パソコンに向かっていた三蔵が顔をあげる間もなく、悟空がその胸に飛び込んでくる。
というか。
強引に抱きついてくる。
無言のまま、ハリセンを取り出した三蔵だったが。

「ごじょーにキスされたっ」

泣きながら訴える悟空に、振り下ろそうとした手が止まった。
三蔵は眉を顰め、ぐしぐしと泣く悟空を見下ろす。
その様子はまるっきりの子供なのだが、涙に濡れる金色の瞳に少し尖らせた桜色の唇は妙に艶っぽい。

そのアンバランスさが――。

三蔵は軽く溜息をついた。

「油断してるのが悪いんだろ」
「してないっ」

きっ、と悟空が顔をあげて三蔵を睨みつける。

「じゃあ、なんでキスされたんだ?」

が、そういってやると、むぅっと怒ったような顔はまたふぇと歪んだ。

「――嫌だったのか?」

俯いてまたもやぐしぐしと泣き始める悟空に聞いてみると、うっというように泣き声が止まった。
少し考えこんでいるような、そんな雰囲気になる。

「……嫌……だったわけじゃ……」

眉を寄せ、どことなく不本意そうに悟空がいう。
が、不本意なのは、聞いた当人の方で。
三蔵は眉間に皺を刻むと、頤に手をかけて悟空の顔をあげさせた。
摘み取るように、ひとつキスをする。
大きく目を見開く悟空の顔を至近距離で見て、もうひとつ。

悟空が隣によく出入りしているのは知っていた。
顔を合わせるたびにお茶に誘われて、最初は三蔵が一緒のときだけ応じていたのだが、そのうちひとりでも行くようになり、そしていまではすっかり餌づけされてしまったらしく、用もないのに足繁く隣に通っている。
もともと人懐っこい性質なので、そうなると最初の頃の警戒心はすっかりなくなってしまい、それで……ということなのだろう。
確かに、こんなのが無防備に目の前にいれば――。

三蔵はまた触れるだけのキスをする。
と、軽いキスだけでは足りない、というように悟空が追いかけてきた。
それに応えるようにキスを深くする。

しっとりと包み込むように唇を合わせ、舌を絡ませる。
と、同時に、三蔵は悟空の上着をたくしあげた。
脇腹を通って胸の突起に触れると、悟空が微かに頭を振って身を竦めた。
その際、離れた唇の間にどちらのものともつかない唾液が糸を引いて、やがて下に落ちていく。

「……ふ……あっ」

甘い声に誘われるようにして、軽くひっかくようにしてやると、悟空がのけぞるようにして白い喉元を見せた。
そこに唇を這わせる。

「ん……、んっ」

震えながら、悟空は三蔵の頭を抱えるような素振りを見せる。
止めてほしいのか、続けてほしいのか。
顔を上げると、蕩けるように潤む金色の瞳と目が合った。
浮かぶ涙は、先ほどのものとは違う。

「……さんぞ」

吐息の混じる声で悟空が呼ぶ。
三蔵は微かに笑みを浮かべるが。

「やきもち?」

悟空がそんなことを言いだして、心外、といったような表情を浮かべた。

「なんで、俺が」
「だって」

どことなく嬉しそうな表情に、なんとなく三蔵は面白くない気分になる。
ので、もう一度、首筋に舌を這わせる。

「ひゃっ」
「どちらかというと仕置きだな」
「なに、それ」

悟空は問いかけるが。

「あっ、やぁ……っ」

すぐに圧倒的な感覚に押し流されて、なにもわからなくなってしまった。