突然の停電


「ふわぁ」

少し開けたカーテンの隙間から外を見て悟空は感嘆の声をあげた。
と、同時に轟音が鳴り響く。

「すげぇ」

外は嵐。
大粒の雨が窓を叩き、雷が鳴っていた。

「悟空、ご飯冷めちゃいますよ」

わくわくと外を見ている後姿に声がかかる。

「ん〜」

ご飯という言葉に普段なら飛んでくるのだが、すっかり外の景色に魅せられてしまった悟空は生返事を返す。

「おっ」

その間にも光が空を駆けていく。
もともと夜で空は暗かったのだが、黒雲がかかりさらに暗さを増している。
暗闇を切り裂くような稲妻は、確かに見てて飽きないほど美しい。

「悟空」

少し困ったようにもう一度八戒が呼ぶ。
ちなみにここはお隣の悟浄と八戒宅。悟空と三蔵は夕飯にお呼ばれをしていた。

「放っておけ。子供と一緒だ。飽きるまで動かねぇよ。腹が減ってるのを思い出せば、勝手に来る」

呆れたような三蔵の声が響く。
その言葉が終わらないうちに。
辺りが、一瞬真っ白になるほどの光。そして、直後に一際大きな音が鳴り響いた。
ズ、ズンと足元に響くような音。

「すっげー」
「いまのは近い、ですね。どこかに落ちたかも」
「小猿ちゃん。気をつけな」

どことなく楽しげな悟浄の声が飛ぶ。

「家のなかだから大丈夫だよ」
「いやいや。そんな窓の近くにいたら、おへそをとられちゃうぞって話」
「へ?」

悟空が振り返る。

「なにそれ、んなこと……」

あるわけないじゃん、と小馬鹿にしたように続けようとして。

突然。
ふっ、と電気が消えた。

「おや」
「おっと」

辺りが暗闇に包まれる。

のなか。
パタパタと足音が響く。

悟浄の隣で三蔵の体が揺れたような感じがした。
そして。

「懐中電灯、ありましたよ」

のんびりとした声が響き、パッと懐中電灯の明かりがついたとき。

「……なにしてんだ、お前ら」

悟浄が少し呆気にとられたように呟いた。
それも無理もない。
目の前でキスシーンが繰り広げられているとなれば。
しかも懐中電灯がついた、というのはわかっているだろうに、一向にやめる気配はない。
これはどうしたものか、と悟浄と八戒が顔を見合わせたとき。

「……っ」

微かな吐息とともに唇が離れていった。

「さんぞ」

もっと、と強請るように悟空が三蔵にぎゅっと抱きつく。
のを、三蔵は抱きあげた。

「おい」
「帰る」

呼びとめる悟浄に三蔵は短く答える。

「帰るって言っても外は嵐だぞ」
「すぐ隣だ」
「停電もしてるし」
「暗くてもできることはあるだろう」

クスリ、と三蔵は笑い、悟空を抱き上げたまま部屋をあとにする。

「……ヤな野郎だ」

むっとした様子で悟浄が吐き捨てるように言う。

「でも、悟空、震えてましたね」

考え込むように八戒が呟く。

――暗闇が怖いのだろうか。

ふたりは悟空と三蔵が出て行った扉に同時に目を向けた。