溜め息の理由


よく晴れた昼下がり。
三蔵と悟空は、リビングのソファにふたり仲良く並んで腰かけていた。

三蔵は膝にノートパソコンを乗せ、なにやら難しい顔で画面を見ていたが、悟空の方はなにをしているというわけでなく、ただソファのうえで丸まるようにして三蔵にひっついていた。
三蔵の膝にノートパソコンが乗ってなければ、悟空の頭が乗っていたのではないだろうか。
ほわほわと眠そうな――それでいて幸せそうな顔でひっついている。

悟空は、たまに――よりももう少し多い頻度で、三蔵にこうしてくっつきたがる。
別に邪魔になるというほどのものではないので、三蔵の方は好きにさせている。
仔猫が懐いてくるようなものだ。
で、本当にそれと同じような仕草で、悟空はすりっと額を三蔵の擦りつけて、ほぉっと溜息をつく。

が。
ふぅ、と今度は三蔵の口から溜息が漏れた。
こちらは深刻そうなもので、眉間の皺が深くなる。

悟空は少し瞬きをして、三蔵の方を見上げた。
じっとパソコンの画面を見ている真剣な横顔。
綺麗だなと思っていたら、また溜息が聞こえてきた。

「三蔵?」

悟空は不思議そうな声をあげる。
たぶん三蔵が見ているのは仕事関係のものなのだろうけど、それでこんな嫌そうな溜息をつくなんていままでにないことだ。
三蔵は、仕事は仕事と割り切っている。好き嫌いは言わない。

――なんだろ?

不思議に思い、ひょいと悟空は画面を覗きこんだ。
そして。

「三蔵っ」

大きな声をあげる。
突然のことに、珍しくも驚いた顔で三蔵が悟空の方を見る。

「なんなんだよ!これ!!」

悟空が指し示す画面には、女の子の顔写真がいくつも載っていた。
名前とスリーサイズ入り。
どの娘にしますか?的なことが上に書いてある。

「昨日さんざんあれやこれやしたのに、それじゃ足りないっての!?」

ガタン、と悟空が立ちあがる。

「三蔵の浮気者!エロ坊主!絶倫!ハゲ!甲斐性なしぃっ!!」

そして一気にまくしたてると、うわーんと泣きながらその場をドタドタと走り去っていく。

「……おい」

あとには呆気にとられたような表情をしている三蔵が残された。
三蔵は、しばらく悟空の去っていった方を見ていたが、やがてまた溜息をつくとノートパソコンを閉じた。

女の子の写真を見ていたからといって、別に悟空の言うように浮気が目的というわけではない。
というか、それは悟空もわかっているだろう。
観音からの依頼――素行調査であった。

が、女の子のなかにその対象がいるというのではない。
対象となる男性がその店に足繁く通っているのだ。
だが、特定の女の子はいないらしい――のだが、それだけ足繁く通っていて、それも変な話だ。なにか裏があるのでは……ということらしい。
そして、その男性というのは、前に『金眼の少年を探している』と観音が言っていた連中と繋がっているらしいのだ。

――が。
その話よりもまず悟空の方が先だろう。
あれで強情だ。臍を曲げられると面倒なことになる。
三蔵は何度目かの溜息をつくと立ちあがり、悟空の後を追った。