春の陽だまり


ふわふわとあったかい。
ゆっくりと意識が浮上し、感覚が戻ってくる。
それとともにしっかりと腕のなかに抱きこまれているのがわかって、思わずほぉっと息をつくと、額にキスが降ってきた。
くすくすとくすぐったそうに悟空は笑う。

追いかけてきた三蔵に抱きすくめられて、キスされて、それからなし崩しに――。
なんだかいつもいつもこうやって甘やかされ蕩かされ誤魔化されてしまうような気がするのだが――それもまぁいいか、と思うくらいの温かさ。

ここにいればなにがあっても大丈夫。
そんな絶対の安心感に包まれる。

すりすりと悟空は三蔵に懐く。
触れ合う素肌が気持ちいい。
こういうとき、実は自分は仔猫なんじゃないか、と本気で思う。
抱きしめられ可愛がられる仔猫。

悟空はもう一度くすくすと笑うと三蔵にぎゅっと抱きつき、それから少しだけ起き上がって腕を立て、三蔵を見下ろした。
こんな角度から三蔵を見ることができる人間なんて他にいない。
こんな風に見下ろすことをきっと三蔵は許さない。
誇らしいような、自慢したくなるような気持ちが湧き上がってくるが。

例え――。

と、続けて浮かんできたことに、急に心が冷える。

例え三蔵が誰を抱いても――。

そう。
例え三蔵が誰を抱いても、こんな風に見下ろされることを三蔵が許すとは思えないのは確かだけど。
でも。

自分は特別なのだ。
そう思いたかっただけなのに、ふと思いついた言葉が心を傷つける。

誰を抱いても――。
自分以外の誰かを抱いても――。
――あの写真のうちの誰か、を――……。

だけど、それは仕事だ。わかっている。もしそうしたとしても心があるわけではない。
こんな風に甘やかしてくれたりはしない。
だいたいこんな綺麗な人なのだ。
いままでだって放っておかれたわけがない。
もしかしたら悟空の知らないところで。
知らない女性と――。

「悟空?」

訝しげな声とともに三蔵の手が伸びてきて、頬に触れられる。

「……やだ」

悟空の口から小さな声が漏れる。

「やだ、やだ、やだっ!」

それはだんだんと大きくなり、そして突然、身を投げ出すようにして悟空は三蔵に抱きついた。

「絶対、嫌だ! 仕事だって嫌だ!」

まるで頑是ない子供のように繰り返し、それから。

「……俺以外のだれにも触れないで」

震える声で呟いた。

これは執着とか独占欲とか――三蔵が嫌う心の動きだということは知っている。

だが。
どうしようもなかった。
嫌なものは嫌なのだ。

「あんなの、悟浄に任せりゃいいじゃんか」

どうしようもない我儘な子供。
そんなものに成り下がっている。
呆れられる。飽きられる。
ぐずぐずと本当の子供のように泣きながら思う。
と。

「それもそうだな」

あっさりと答えが返ってきた。

「え?」

びっくりして顔をあげると、苦笑しているかのような表情。
そっと涙を拭われる。
そして。
重なってくる唇に。
冷えていた心が、ほわっとまた温かくなった。